30 中新田町営住宅

中新田のまちに調和した新しい風景づくりおよびまちとしての界隈空間づくり。

中新田の素材の活用。

中新田のつくり手の活性化。

配置計画では、西側の既存コンクリートパネル式の町営住宅群と共有できるように、集会室、屋外劇場、藤棚広場といった地区全体のコミュニティ施設ゾーンを設けた。

このゾーンを連結しながら敷地内に鮎の里の鳴瀬川をイメージ化した大通り(人と車の共存通・コミュニティ道路)を設け、ここから東西線軸に横丁、南北軸に小路、さらに住戸間の露地へとオープンスペースを連続させている。これらのみちのつながりと屋外劇場・藤棚広場・通り庭・メタセコイヤ広場といった溜りとを絡み合わせた計画とした。大通りについては人と車の共存するボンエルフ方式とし、駐車場は芝と枕木を施しポケットパークを兼ねる。

住戸配置は、大通りにBタイプの平屋建て3戸を配置、それを取り囲むように大きさの違う2階建てA・Cタイプを混在させることで、圧迫感を和らげ視覚の広がりを確保しながら、住戸および外構に変化を持たせた多様な町並みを計画した。

中新田町周辺は西側の奥羽山脈が低くなだらかで、そこを越えてくる大陸からの風が強い。それによって発生する強い地吹雪(舟形おろし)をこの地方特有の風景である久(ぐ)根(ね)(防風林または屋敷森)で防いでいる。本計画でも敷地西北辺に居久根(杉)を配置し、さらに40種類にもおよぶ植生を考慮した花木を含むさまざまな樹木を植えて、樹木に囲まれた集合住宅として中新田の風景との調和を計った。

さらに外部空間を構成する要素として、この住宅群の門を兼ねた象徴として火の見やぐらを入り口に配置した。その他傘型のごみ置き場、藤棚、鮎のかたちの道標、木戸、四ツ目垣、鉄砲垣などにこれらオープンスペースの小道具としての役割を演じさせている。露地、横丁、小路などの歩道の仕上げは中古枕木(コストダウンを計った)とインターロッキングを組み合わせ、さまざまなパターンを構成した。

建物群の屋根は瓦葺き(和瓦・銀黒)の切妻を基調として、低層の寄棟を組み合わせている。外壁は真壁しっくいとし、2階部分の高さを視覚的に和らげるために腰部分までは黄しっくいに堅押縁とした。これらの屋根と外壁の素材・色調を統一することによって家並みの調和と連続感を考慮した。住戸の平面計画では、台所を独立させ、戸間、食堂、和室をできるだけ連続した空間とした。さらに台所を経由した裏動線を確保し、台所の外部にはサービスコートおよび外流しを設け、野菜や魚の下洗いができるように配慮している。住戸2戸で共有する通り庭としての屋根付の土間空間は、セミパブリックスペースとして玄関のポーチを兼ね自転車置き場となり、それに外物置を面して設け、積雪のある冬期間のアクティビティを高める空間を意図している。これら住戸は木造で在来軸組構法であり、和小屋構法である。できるだけ金物類を避け、伝統的な継手・仕口を使うこととした。

これらの工事を担当したのは、中新田町のHOPE計画の主旨により大工さんを含めた中新田町内の14業者の対等な発注で行われ、毎週の定例25人前後の大会議であり、細かいところの納め方まで丁々発止の研究会であり、勉強会でもあった。杉を含めさまざまな材料の共同購入および施工図の分担など、はじめは不慣れであったが、本来の町内の仲間ということで次第にチームワークが昂まり、助け合って、ローコスト、かつ短い冬期間の工事を乗り切った。町建設課のふたりの担当者の熱心な努力を含め、町おこしの町営住宅づくりは、一応の成果を納めたと思える。終わりに、屋根の上に載せた火伏の虎舞のブロンズが、この住居群を火から守ってくれるようにと祈りながら……。

8 月 1988
カテゴリー: 住宅
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Shoichi Hariu